家賃滞納問題を裁判で解決する方法

代表弁護士 佐々木 一夫 (ささき かずお)

不動産所有者としては、家賃滞納はもっとも避けたい問題です。
家賃滞納が起こった時にどう対処すれば良いか、基本的な対応方法を知っておくことはとても大切ですし、いざ訴訟に至った場合どのような流れになるのか、予め理解しておく必要があります。

ここでは、滞納された家賃の回収と部屋明け渡しのために、裁判でどのように解決すれば良いのかお伝えします。

家賃滞納発生から訴訟に至るまでの流れ

入居者の家賃滞納が確認されたら、大家としては直接督促するところから始まります。それでも未納分が支払われない場合は、内容証明郵便の送付や訴訟に至ることになります。

滞納者に支払いの催促を直接行う

まずは居住人である滞納者に対し、未納分を支払うよう電話や対面で直接催促します。直接催促しても支払いが行われなければ、連帯保証人に連絡を取って事情を説明し、未納分の清算を依頼することになります。

内容証明郵便の送付

2ヶ月ほど催促を行っても一向に未納分が清算されない場合、次の手段として内容証明郵便を送ります。未納額の明示や催促にも応えなかった事実、指定期日までに金額を支払うことを、書面として確実に相手に届けます。

これにより、居住人に確かに請求したという証拠ができ、かつ訴訟も視野に入れていることを暗に伝えることができます。
3ヶ月以上経っても未納分が支払われなければ、賃貸借契約を解除する旨を内容証明郵便で伝えます。

明け渡し請求訴訟

賃貸借契約解除に至っても未納分について解決しない場合、裁判所に部屋の明け渡しを訴え、加えて未払い分家賃と遅延損害金の請求を行うことになります。
訴えを起こすと裁判所から貸借人に対し訴状が届きます。裁判に至った場合、当事者は自分の主張を裏付ける証拠を提出する必要が出てきます。

この時、大家としては、貸借人の落ち度は明確であり、「大家と借主の信頼関係は破たんしている」ことを裏付ける証拠の一つとして、未払い分の請求書や内容証明郵便が必要になります。

(但し、一般的には最低でも3ヶ月以上の滞納がなければ、明け渡しが認められない可能性があります)

訴訟では原告と被告が出席することが求められますが、欠席する被告も散見されます。欠席は主張の機会を自ら放棄したと見なされ、原告である大家の主張が全面的に認められやすくなります。大家が明け渡し強制執行の申し立てを行った場合、裁判所から被告である居住人の元に、1ヶ月以内に退去し明け渡すよう命じる立ち退き催告が届きます。

【ワンポイントアドバイス:絶対にやってはいけない2つのこと】
家賃督促が人生で初めての債権回収という大家さんは多いのではないでしょうか。それゆえに、督促の仕方を間違えると、反対にこちらが不利な立場に立たされる恐れがありますので注意が必要です。
中でも絶対にやってはいけないことについて2点ご紹介します。

1:玄関に張り紙をする

手紙を出したり電話をしてもすべて無視をする賃借人は少なくありません。そんな場合は、つい賃借人の部屋の玄関に張り紙をしたくなってしまいます。
ただ、賃借人の部屋の玄関に家賃を支払うよう張り紙をする行為は、法的に問題があるため絶対にやめてください。

他人に家賃滞納をしていることを殊更にわかるよう張り紙をすることは、本人のプライバシーにも関わるため、いくら連絡がつかないからとはいえ絶対にしてはいけません。

2:玄関の鍵を交換してしまう

昔の大家さんはやることがあったそうですが、これも大問題となるため絶対にやってはいけません。
書面でそのように書いて通知をしてプレッシャーをかけることはありますが、実際に交換してしまうと、反対にこちらが不利になってしまいます。

気持ちはわかりますが、部屋の鍵を交換して良いのは、建物明け渡し請求訴訟に勝訴して実際に明け渡しが行われた後になりますのでご注意ください。

争う点がないため結審が早く和解で終了することも多い

家賃滞納問題では、契約時に取り決めた金額を期日までに支払わず不誠実な態度を取り続ける居住人に非があり、かつ滞納額も明確であるため、裁判になっても争う点がありません。
従って裁判所に訴えても比較的早い段階で結審するか和解により終了するケースも多く見られます。

大家が本人や連帯保証人に催促しても誠実な対応が見られず、未納分が支払われない時は、3ヶ月を目安として法的手続きに移行します。
明け渡し請求に関する訴状を作成し裁判所に提出すると、約1ヶ月後に裁判所から出廷の期日連絡が届きますので、これに従い出席してそれぞれ主張を訴えます。一般的には月に約1回のペースで裁判所へ出廷することになります。

問題は居住人の家賃滞納にあるため、被告である居住人には反論すべき点がありません。争点がないことになるため、通常裁判は2回程度で結審を迎え約2週間で判決が言い渡されることが多いです。
判決が出てから被告のもとに書面が届くまでさらに約3週間かかりますので、訴えを起こしてから全て終了するまでには早くても3~4ヶ月程度かかることになります。

なお、被告が判決を受け取ってから2週間以内に控訴しなければ判決確定となり、明け渡しの強制執行が可能な状態になります。

裁判では、判決に至る前に両者の和解を進めてくることがよくあります。仮に被告である居住人が「未納分を少しずつ返済するので引き続き居住させて欲しい」等と申し出た場合は、金額や期日等を明確にした上で、裁判官が和解成立を前提に話を進めてくれることもあります。大抵の場合、2回目の期日で和解成立となることが多く、裁判は約2カ月程度で終了します。

自力で訴訟を起こす場合は数万円程度で済むこともある

裁判所に訴えを起こす時は、裁判所利用手数料に該当する収入印紙と裁判所から書類送付を行うための切手を納める必要があります。
建物明け渡し請求事件では、固定資産税評価額の2分の1を訴額として印紙代が決定されますので、所有するアパート・マンションの評価額が1000万円の場合、その2分の1にあたる500万円が訴額となり、裁判所に納めるべき印紙代は30,000円となります。

また、郵便切手代は大よそ5000円~6000円程度であるため、自力で裁判を起こす場合は数万円程度の費用で済むことになります。

ただし、法曹界で使われる用語は難解で理解や使い方に苦労することや、訴えを起こしてから終了するまでの流れを把握する必要があること、相手方との関わりで常に冷静を保つ必要がある等、裁判の当事者になると日常生活を阻害するほどの労力や精神的負担を強いられることになります。

迅速に問題解決しなければ収入減の状態を回復させられず、他の住民への影響も心配され、速やかに次の入居者を募集し空室を埋める手配も不可欠である等、やるべきことや心配すべきことは山積みです。だからこそ、最初の時点から専門家である弁護士に依頼することは大変重要なのです。

弁護士に依頼した場合にかかる費用は着手金と成功報酬の2種類あります。依頼時に支払うのが着手金で、問題解決時に支払うのが成功報酬です。建物明渡し請求事件の場合は事案の難易度により金額が変化することが一般的です。当事務所では、費用について以下の通り明示しています。

裁判手続のみ 着手金20万円〜/報酬金20万円〜
(未払賃料を回収した場合は、別途回収額の10%をご請求。)
裁判手続および強制執行手続 着手金25万円〜/報酬金20万円〜
(未払賃料を回収した場合は、別途回収額の10%をご請求。)
強制執行手続のみ 着手金10万円〜/報酬金20万円〜

少額訴訟を利用すれば1日で問題解決に至る

訴額が60万円以下の場合に限って利用できるのが少額訴訟です。
審理は原則として1回で終了し、当日中に判決が出ます。当日結審するため、契約書や家賃の請求書、領収証、内容証明郵便の控え、両者が交わしたその他の取り決め書面等、必要な書類は全て揃えておき、審理当日に確認できるよう準備を行うことが必要です。

弁護士の専門的な力を活用し速やかな解決を目指すことが大事

家賃滞納と言ってもその内情は千差万別であることから、自力で訴訟を起こし解決することが難しい場合も多々あります。相手がどうしても支払いを拒んだり、連絡がつかなかったり、本来の居住人ではない第三者が部屋を占拠し明け渡しに応じないケースもあります。

弁護士を味方につけておくことで、難しいケースでも法に則った適切な対応が可能ですので、ぜひ積極的に弁護士に相談することを強くお勧めします。
相談の際には以下の書類やメモを揃え、弁護士に的確に状況を伝えられるようにしておくとスムーズです。

  • 賃貸借契約書の控え
  • 入金から滞納に至るまでの状況がわかるメモ等
  • 居住人の年齢や性格、トラブル履歴等
  • 登記簿情報
  • 図面
  • 固定資産税評価証明書
  • 権利証

必要な情報を提供して頂ければ、当事務所としてもより適切な助言を行うことができるので、ぜひこれら資料をご用意の上でご来所ください。