家賃滞納者に対する催促が違法行為にならないための注意点

代表弁護士 佐々木 一夫 (ささき かずお)

アパートやマンションの経営者にとっては、入居者から頂く家賃が直接収入となるため、滞納問題は非常に深刻です。
何とか払ってもらおうと家賃滞納者に催促を試みたい気持ちは当然ですが、やり方によっては違法行為となる可能性もあります。

ここでは、滞納家賃の催促方法が違法であると指摘されないためにどうすれば良いか、その注意点をお伝えします。

実力行使の過度な催促は法に抵触する可能性がある

滞納家賃の支払いを何度お願いしても誠実に対応してもらえない場合、大家としては徐々に感情的になる傾向があります。支払うべき家賃を滞納しているのは入居者の方であり、債務不履行である以上、強い行動に出るべきだという気持ちに駆られてしまいやすいのです。
しかし滞納家賃の催促は「取り立て」に当たり、強引な行為を行うと貸金業法に抵触する可能性が出てきます。

特に次の点については、絶対にしないよう気をつけましょう。

注意すべきポイント1:督促方法について

滞納者が在室でないことから職場に電話をして督促を行ったり、連絡が取りにくいことから朝早い時間や夜遅い時間に督促を行ったりすると、「法に違反する取り立て行為である」との反論を受ける可能性があります。

本人に電話連絡がつかなければ、連帯保証人や勤務先にかけるしかありません。
この際、勤務先に督促の電話をする際には、くれぐれも本人が家賃を滞納していることは伏せておきましょう。本人のプライバシーに関わるからです。
あくまで本人と話すことだけを目的とし、会社の方には詳しいことを悟られないように注意しましょう。

注意すべきポイント2:鍵の交換について

大家であることを利用して、勝手に鍵交換を行い入室できないようにする行為も違法となります。いくら家賃を滞納しているとは言え、勝手に部屋の鍵を交換して入れなくする行為は、過去の裁判でも認められていません。
腹ただしい気持ちはわかりますが、勝手に鍵を交換してしまうと、こちらが不利な立場に立たされてしまうため注意しましょう。

注意すべきポイント3:ドアへの張り紙

連絡がつかない入居者あてに、玄関ドアに家賃督促の旨の張り紙をするケースがありますが、これも訴えられるとかなり苦しくなります。
ほかの人にも目に付く場所に張り紙をすることは、賃借人とトラブルになるだけなので絶対にやめましょう。

どうしても電話連絡がつかない場合は、手紙などをポストに投函するなどといった方法に止めましょう。

家賃滞納は弁護士への相談が安心確実です

滞納家賃の回収は死活問題であることから、大家にとっては大変深刻であることは当然です。しかし、法律をよく理解していなかったために無自覚に違法行為を行ってしまい、逆に滞納者側から責められ、部屋の明け渡し訴訟や滞納家賃の回収をスムーズに進められなくなることも考えられます。

そのため回収を行いたい場合は法律の専門家である弁護士に相談し、慎重に進めることがとても大切です。

また、何より、滞納問題を起こさないためには、入居審査の時点で安心できる相手か見極めておかなければなりません。身内など信頼できる連帯保証人がいるか、収入と家賃のバランスはとれているか、場合によって家賃保証を利用することも大事です。

空室を埋めたいがために、審査に多少不安があっても入居を許可してしまう大家も散見されます。しかし、最初の時点でしっかりとふるいにかけておかないと、後に滞納トラブルが発生し深刻化した際、滞納額をはるかに超える対処費用が必要になってくる可能性があることを理解しておかなければなりません。

冷静な催促を行い、応じなければ内容証明郵便で証拠を残す

滞納者に重ねて催促を行わない限り、強制退去への道は拓けません。
当事者間で滞納家賃に関する話し合いや催促があった事実があって初めて、裁判所に訴えることが可能になるのです。

例えば大家が相手の態度に我慢できず、裁判所の許可も得ていないのに勝手に鍵交換をして入室できないようにしてしまえば、それは法に則らず行われた違法な自力救済になります。勝手に滞納者の部屋に入室すれば住居侵入罪になりますし、家財道具を勝手に運び出せば器物損壊罪等にあたる可能性があります。

大家としては滞納された家賃を回収し滞納者に退去してもらうことが本来目的ですので、まずは相手に直接催促を行うことから始め、段階を踏んで法的手続きに移行していく必要があります。未払い家賃の支払いについて、電話や手紙、あるいは口頭ではっきりと催促し、それでも支払いに応じてもらえない場合は連帯保証人に未納分を請求します。

滞納者やその連帯保証人が支払いに応じない場合、次は内容証明郵便に次のことを記載して送付し、催促の証拠を残します。

  • 家賃に未払いがあることと
  • 未納月と金額の内訳
  • 指定期日までに支払うこと
  • 支払いが実行されない場合は賃貸契約を解除すること

郵便局には、差出人と受取人、記載された内容、郵便がいつ送付されいつ受け取られたかという記録残るため、訴訟では非常に有効な証拠となります。指定した期日までに未納分が支払われなかった場合は、記載の通り賃貸契約は解除されることになります。

内容証明郵便を自分で作成し送付する場合、約1200円の費用が必要になりますが、記載事項の漏れや間違いを防ぎ万全を期したい場合は弁護士に作成を依頼することもできます。

当事務所では、本人名義で作成する場合は着手金3万円から、かつ報酬金なしとしております。弁護士に依頼すれば費用はかかりますが、当事者同士での話し合いが感情的になりやすいことを考えれば、冷静に粛々と話を進めることができる弁護士の存在はかなり心強いでしょう。

内容証明郵便を送っても支払いを実行しない場合は明け渡し請求訴訟に

内容証明郵便の記載事項が実行されず賃貸契約が解除されても、大家は滞納者を強制的に退去させることはできません。
立ち退きを求めるためには、部屋の明け渡し請求訴訟を起こし、法に則った形で相手に退去を求めていきます。

裁判所では、「度々催促を行ったのに滞納家賃の支払いを実行しなかった」「滞納が繰り返され誠実ではない」といった点に基づき、「大家と貸借人の信頼関係が破壊された」と見なされるかどうかが重要になってきます。

明け渡し請求訴訟と同時に未納家賃の請求も行いますが、判決が下る前に裁判官から和解を勧められることが多くあり、和解が成立しなければ判決に移行します。
明け渡し訴訟を起こすためには、訴状以外に不動産登記謄本や固定資産評価額証明書、切手、印紙、証拠となる内容証明郵便の控えや請求と未納の記録等が必要になります。

明け渡し訴訟で判決が出たらいきなり強制的な退去を迫るのではなく、もう一度大家から滞納者に対し部屋を明け渡すよう求めます。それでも退去を拒み続ける場合、大家は明け渡しの強制執行を申し立て、裁判所の許可を得た上で強制的に滞納者を退去させることができます。申し立てには以下の書類が必要です。

債務名義 確定判決のことを指し、大家が明け渡し請求の権利を持つことを証明します。
執行文 申し立ての際、判決文に「強制執行できる」ことを証明する文言を追加してもらいます。
送達証明書 滞納者に債務名義が確実に届いたことを証明する書面を裁判所からもらって用意します。

以上3点の書類を揃え、所有アパート・マンションの所在地を管轄する地方裁判所に強制執行を申し立てます。
強制執行においては、まず執行官と大家、立会人等の関係者が部屋に直接出向き、占有状況を確認したうえで、引き渡し期限と強制執行日時を記載した書面を部屋に貼り付け「明け渡しの催告」を行います。
強制執行は明け渡し催告の1ヶ月後となり、それより2~3日前までに自主的に退去して部屋を引き渡すよう期限を設定します。

引き渡し期限内に滞納者が退去しなければ、明け渡し催告から1ヶ月後に「断行」と呼ばれる強制執行が実施されます。
執行官や執行補助者らが当該物件に出向き、解錠して部屋から荷物を運び出し、最後に鍵交換を行って完了します。

法的に慎重な対応が求められるため弁護士を介入させることが重要

滞納家賃の催促に始まり部屋明け渡しの強制執行に至るまで、およそ数ヶ月から1年もの期間がかかります。その間の家賃は当然支払われず、大家は深刻なトラブルと数ヶ月分の家賃収入減、加えて訴訟や強制退去等に関わる費用等、多大な損害を被ることになります。

少しでもダメージを抑えるためには、弁護士の力を借りてスムーズに手続きを進行させることが不可欠ですから、問題が発生したら早い段階で弁護士に相談に行くことを強くお勧めします。

なお、当事務所で訴訟や強制執行の手続きを受任した場合の費用は以下の通りです。

裁判手続のみ 着手金20万円〜/報酬金20万円〜
(未払賃料を回収した場合は、別途回収額の10%をご請求。)
裁判手続および強制執行手続 着手金25万円〜/報酬金20万円〜(未払賃料を回収した場合は、別途回収額の10%をご請求。)
強制執行手続のみ 着手金10万円〜/報酬金20万円〜

弁護士という法の専門家が介入すれば滞納者にプレッシャーをかけることができるため、家賃未払いや退去についてスムーズに解決しやすくなり、感情的なもつれを防ぎ、粛々と手続きを進められるようになります。

滞納問題は明け渡し訴訟や強制執行等、法的手続きに発展することが多いため、弁護士に依頼することで間違いのない対処が可能になります。
滞納問題が発生した当初から大家として隙のない対応を行うためにも、ぜひ一度当事務所までご相談ください。