所有不動産における騒音問題を大家としてどう対処するか

代表弁護士 佐々木 一夫 (ささき かずお)

所有不動産における騒音問題は、最も発生しやすく解決が難しいトラブルだと言えます。対応によっては問題が悪化することもあり、大家や管理会社としては神経を使う繊細な案件になってきます。

ここでは、不動産の所有者あるいは管理会社が、騒音問題についてどのような対応ステップを踏むか、また最悪のパターンではどのように対処するかご説明します。

所有者とは別に管理会社に委託している場合は任せて良い

アパートやマンションは集合住宅ですから、隣家との間は壁や天井、床だけで隔てられています。各部屋では入居者が生活しているため、ある程度足音やテレビの音、話し声等が聞こえてくるのはやむを得ないところがあります。
日常生活に伴う音は生活音とされ、集合住宅では入居者が互いに配慮や譲歩しながら暮らすことが求められるのですが、あまりにも音が大きかったり頻繁に聞こえてきたりする場合、騒音トラブルに発展することがあります。

このような場合、物件の管理者は、入居者が快適に生活する場を提供する義務があるため、騒音問題の解決に努める必要があります。騒音問題により入居者の快適な生活が阻害されているにも関わらず適切な対処を怠れば、大家としては債務不履行になるため、貸借人の退去や損害賠償請求を受ける可能性も出てきます。

ただし、物件の所有者が管理会社に管理を委託している場合は、騒音問題の対処を管理会社に任せることができます。このように管理会社は、入居者募集から各種のトラブルまで対応してくれるため、物件所有者としては安心できる管理会社を見つける必要があります。
24時間稼働するコールセンターを持つ管理会社等は、入居者にとって非常に安心であり、所有者としても時間を問わず対応を任せることができるので、管理に強い会社と言えます。

管理会社に任せた場合、次のように騒音問題の解決を図ってくれることになります。

上階の住人の足音が急にうるさくなった

上階の住人が引っ越し別の人が居住していたことが原因。厚手のスリッパ着用をお願いして解決。

夜間に音楽の重低音が響いてうるさい

ステレオの下に敷物を敷いてもらうことで解決。

基本的には、騒音を発していると思われる住人に事情を説明し、協力をお願いする形になります。人間同士の感情の行き違いにならないよう配慮することはとても難しいですが、信頼のおける管理会社であれば安心して管理を任せることができます。一方、所有者としては随時管理状態を確認し、不備があれば指摘する等積極的関わることが大切です。

【ここに注意!】管理会社が放置するケースに注意

管理会社に管理を委託していれば、大家が直接賃借人から苦情を言われることはほとんどないでしょう。ただ、管理を委託しているとしても、完全に安心できるわけではありません。

仮に、管理会社がきちんと対応せず、騒音問題がますます悪化したような場合は、最終的には賃借人からオーナーに直接苦情が入ることになります。賃貸管理を管理会社に委託しているからという理由で、賃借人からの責任を逃れることはできません。

管理会社の仕事ぶりをチェックするのも、大家としての重要な業務の一つであることを忘れないでください。

管理会社に委託していない場合は所有者が大家として対応しなければいけない

管理会社に任せていない場合は、不動産の保有者が管理人として対応しなければいけません。基本的な対応の仕方は管理会社と同様で、相手に対し音の出ないようお願いをすることになります。

集合住宅では生活音を完全に遮断することは不可能であり、入居者もそれを理解して生活しています。しかし、生活音に対してどこまで許容できるかは個人により感じ方の異なるところであるため、大家である不動産保有者としては、騒音の状態を客観的に確認した上で対処を図る必要が出てきます。
騒音とされる音が「社会生活上、受忍すべき限度を越えており、居住に適していない」ことを確かめ、限度を超えると判断できる場合には迷惑行為として当事者に厳重注意を行わなければなりません。

客観的な確認を行うためには、例えば以下のような方法を用います。

  • 各都道府県や市町村が定める騒音基準(40~60dB)を超えているか
  • 騒音が発生する時間帯や騒音の程度、騒音の種類を確認する
  • 周辺環境を確認する
  • 当事者と住民の間で話し合いがもたれていたか

以上の事柄を確認の上、「社会生活上、受忍すべき限度を越えており、居住に適していない」かどうかを客観的に判断していくことになります。

対応の基本的ステップと賃貸借契約解除に至るケース

騒音と認められる場合、当事者に注意や警告を何度行っても改善しなければ、場合によって賃貸契約を解除できることがあります。入居時に交わす契約書では一般的に「騒音や大音量等により近隣住民の迷惑になる行為を禁止する」旨の項目が設けられており、当該項目がなくても入居者の義務として近隣に迷惑をかけないことが求められています。
従って、この取り決めに違反し、何度も警告したにも関わらず改善しない場合は契約を解除することもできます。
騒音を発している当事者に対し、注意や警告を行うステップは以下の通りとなり、最終的には契約解除の通告に至ります。

原因となっている入居者に書面で注意する

まずは書面で騒音に関するお知らせを作成し、当事者だけではなく入居者全体に対して周知します。特定人物だけにお知らせを行った場合、クレームを申し出た入居者が特定されるリスクがあるため、まずは全員に対して事実を知らせることが大切です。
このお知らせによって他の入居者からも騒音に関する情報が得られれば、対処する側としても有効な証言を得られることになります。

当事者に直接お願いする

お知らせで改善がない場合、騒音の当事者に対して直接電話等で生活音に対して配慮するようお願いを行います。管理人としては騒音発生時に現場で音を確認することは難しく、この段階で当事者を一方的に責めることはできませんが、音で悩んでいる住人がいる事実を伝え、生活音についてなるべく配慮してもらうように促します。

実際に音を確認し関係者による話し合いを行う

お知らせやお願いで改善しない場合や、明らかに騒音と思われる音が確認できた場合は、当該入居者同士の話し合いに映ります。ただし、当事者同士による話し合いはなかなかスムーズに進まないことから、管理人が同席して話し合いをリードします。
管理人はあくまでも話の進行役であり決定権を持ちません。両者が互いの言い分を伝えやすいよう、また感情的にならないよう、場の空気を維持する役割を担います。

特定人物が明らかに騒音を発しており、かつ何度も繰り返している場合は契約解除の可能性も

騒音を出している入居者が特定でき、事前に注意や話し合いによる改善を促してきたにも関わらず繰り返し迷惑行為を行う場合は、「再び迷惑行為を行った場合は賃貸借契約解除とする 」旨を記載した書面に署名捺印してもらうことも必要になります。

賃貸借契約解除の可能性は「賃貸借における信頼関係の破壊」の有無による

入居者から騒音に関するクレームがあったとしても、即刻退去通告を行うことは現実には難しいと言えますが、繰り返し迷惑行為を行う場合は「賃貸借における信頼関係を破壊した」という理由から契約解除できる可能性が出てきます。

例えば、一般的には生活音として受忍されるべき音に我慢できず、壁を叩いたり怒鳴ったりといった行為を繰り返した場合がこれに当たります。当人としては生活音を騒音として感じたため、注意を促すために壁を叩いたり大声を出したりしたのだとしても、近隣住民にとってはそれこそが迷惑な騒音であり、耐え切れずに退去した入居者もいたということであれば、この場合は「信頼関係が破壊された」と判断される可能性があります。

騒音問題の現実とは

ここまでは、騒音問題の基本的な対処法などについて解説してきましたが、実際問題として、アパートやマンションなどの集合住宅の騒音問題は解決することが非常に難しいです。なぜなら、以下のような理由があるからです。

騒音を出している部屋を特定できない

上記の対処法は、主に騒音を出している部屋を特定できている場合です。
例えば、101号室の住人に注意をして、その人が騒音を出していることを認めれば良いのですが、多くの場合、騒音を出している本人は騒音について注意されてもシラを切り通します。
それで改善してくれれば良いのですが、改善しないとなると、本人が認めない以上、客観的な証拠がないと断定的に注意することが難しくなります。

実際、集合住宅の場合は、隣がうるさいと思っていても、実は隣からの音ではなかったということが少なくありません。建物の内部は壁でつながっているため、思っていたところとは違う場所から騒音が来ている可能性もゼロではないのです。

このように、騒音問題は加害者の特定が非常に難しく、万が一間違えた時のリスクも大きいため、対処する際には慎重にならなければなりません。

人によって音の感じ方は違う

10部屋中9部屋の住人がうるさいと証言していれば、それは間違いなくうるさいでしょう。けれども、中には音に敏感な人もいて、前の住人は何ら気にかけなかったような音でも、うるさい、と苦情を入れてくるケースがあります。

特に、コンクリートのマンションから木造アパートに引っ越してきたような人の場合、前回との音の違いから苦情が多くなる傾向があります。
うるさいと感じる音の大きさは、人によって違うため、これを注意するとなると実際問題非常に面倒です。

そのため、音が聞こえやすい木造アパートなどについては、契約前にある程の音については理解をしてもらうよう説明しておくことが重要です。また、契約書に騒音問題については大家は基本関与せず、当事者同士で解決するよう記載することも一つの防衛対策になるでしょう。

必ずしも入居者の情報がわかるわけではない

アパートを1棟丸ごと所有しているケースは良いのですが、分譲賃貸マンションの場合は一部屋ごとに所有者や管理会社が異なるケースがあります。つまり、101号室と102号室で大家も管理会社も違うことがあるのです。そうなると、仮に102号室がうるさいと101号室から苦情が来ても、102号室の住人の情報は知らないということになります。この場合、101号室の管理会社は102号室の管理会社に電話して対処するよう伝えるしかできません。
分譲賃貸マンションで騒音が発生すると、事態を掌握することが難しくなるため、解決までに時間が掛かる傾向にあります。

このように、騒音問題は教科書通りにはいかないこともとても多いです。問題がこじれる前に、一度弁護士に相談することをお勧めします。

冷静な話し合いのもとに解決を図るなら弁護士を介入させることが肝要

騒音問題に関しては、結局のところ問題の当事者間で話し合って解決するほかなく、管理人としてはいかに問題を深刻化させないかという点で配慮が必要になってきます。

一般的には受忍される生活音だったとしても、別の人には気になる騒音として聞こえることもあるため、音を発している入居者を一方的に追及することは理にかなっていません。問題の性質として、当事者達にとってそれが生活音なのか騒音なのかの境目が曖昧になりやすく、かつ互いに被害者意識を持ちやすい面もあります。だからこそ、騒音基準値を活用したり、近隣住民に確認したりする等、できるだけ客観的な情報を集めることが重要です。

管理人は騒音仲裁に長けているわけではないため、当事者の話し合いによる解決を仲介することも決して簡単ではありませんが、保有不動産に住む人達の円滑な人間関係がなければ優良不動産としての質を維持することが難しくなります。

このため、適切な対応方法に関する助言や仲裁の目的から、弁護士を介入させることも重要な手段の一つとなります。弁護士がいると粛々と話が進むことが多いため、冷静かつ的確な話し合いをリードする助けとなります。

当事務所では依頼人の話をよく聞き事情を理解した上で、最良と思われる提案をしていきますので、騒音問題に関して小さなことでも気軽にご相談頂き、大事になる前に弁護士とともに適切な対処を行うことをお勧めします。